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『平均思考は捨てなさい』妊娠中〜就学中のすべての子どもの親におすすめ

『平均思考は捨てなさい』妊娠中〜就学中のすべての子どもの親におすすめ

公立小の教育を見ながら、子どもが小さいうちに読めて良かった!と思った本について書いてみます。

あまりに当たり前すぎて考えることもない、「平均」という考え方について書かれた本です。

乳幼児身体発育曲線に対する疑問、低出生体重児しか産めない母の実感として、私はいろんなところで書いているのですけど、「中央値の人はいない」ってよく言うけど、身体発育曲線を生み出す前提にある「平均」が、この違和感のそもそもの犯人だったんですね〜!

平均ってなに?

まず、平均ってなに? というところから始めます。

もともとは、順調にキャリアを重ね、さぁ頂点に上り詰めた〜〜というところで母国の革命で王立天文台の館長になりそびれた19世紀のベルギー人学者ケトレーが、土星の運行スピードを計るような手法を、折しも勃興してきた近代社会における人間の研究に持ち込んだことで発見されました。

人間を科学的に分析する手法です。

どれだけ用意周到に人生を歩んでいても、社会が安定しないと、キャリアは一気に吹き飛んでしまう。
ケトレーは、自分の夢を吹き飛ばした社会を安定させるために、人間を計測しようとしたのですね。

BMI値は平均主義の産物

ケトレーが発明したものはたくさんあるのですけど、BMI値もその一つです。

「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」、皆さん一度ならず、計算したことあるでしょう! 
出産経験ある方なら、妊娠中も散々やっているはず。

さて、当時の天文学の世界では、たとえば土星の運行スピードを手動で計っていました。

手動ですもの。当然計測ごとに、誤差が生じます。
その誤差を、天文学者は、「平均値を出す」形で、解消していたんですね。

ケトラーは、同じように、人間のあらゆる側面について平均値を出し、それが、「真の値」であると分析していったわけです。

日本人、アメリカ人、フランス人など、各国の国民の身長、体重、腕の長さなどを平均して出していくと、日本人、アメリカ人、フランス人とはどういう人たちなのかを表す、真の値がわかります。

平均は、自然が定めた値……。
全てが平均に収まる「平均人」である日本人が見つかれば、その人は、日本人という「タイプ」を代表する存在となります。

平均人は理想の日本人。平均値と比べると、自分がどのあたりにいるかわかる、という感じです。

人間を管理する「平均」の嘘

今では平均ってあっちゃこっちゃにありますよね。
テレビの視聴率、平均年収、出生率、離婚率、いくらでも出てきます。

平均で人間を管理する考え方はあっという間に世界に広がり、「個性」より、「制度」が重視される社会へと繋がっていきます。

たとえば米軍では、大掛かりな身体測定を経て「理想の兵士」に合わせて作ったコックピットを標準装備して、飛行機を飛ばすようになります。

でも空軍兵士が、事故でどんどん死んでいく。多い時で日に17人が墜落事故で死亡。

何がおかしい? 兵士の平均値が大幅に変わっているのか? 

史上最大の身体測定が行われ、4063人のパイロットからデータが集められました。
身長、胸回り、腕の長さなど、10カ所について平均値を割り出します。

そこで、ある研究者が、平均値に当てはまる兵士が実際どれくらいいるのか検証してみるという、逆の手順を思いつきました。

兵士一人一人の数値を、平均値と比べます。
誤差が30パーセント以内ならば、平均に該当するとみなすという、ゆるいルールでした。

データから割り出された平均身長は175センチメートルだから、「平均的なパイロット」の身長は170センチから180センチメートル。

幅としてはよく見るというか、乳幼児身体発育曲線ってそんな感じですよね。

科学者たちは、そもそも体格が平均的な人でないとパイロットにはなれないので、パイロットの大半は、ほとんどの部位の測定値が平均の幅に収まるだろうと予測したそうです。

そして、4063人のパイロットのなかで、10項目すべてが平均の範囲におさまった人数は……
0人でした。

部位を3つに絞っても、3.5パーセントに満たなかったそうです。

苦労して計算したのに、「平均的兵士」なんていない、という結論が出てしまいました!

結果、兵士の最新平均値を割り出すという軍の一大ミッションそのものを放棄して、平均的兵士のためのコックピット作りを取りやめ、「個人の個性に合わせた」コックピットを設計することに。
(というふうに大規模組織が方針をリセットできるのは素晴らしい気も)

そして、今の自動車のように、ベルトや座席位置を稼動できる形が発明され、空軍兵士の墜落事故死は激減したそうです。

教育における「平均」とは

このように、社会のあちこちで根付いている「平均」を重視する考え方の危険性や嘘を暴き出していく著者は、平均的でないことで、ハイスクールをドロップアウトした経歴の持ち主。

その後、工場でブルーカラーとして働き、生活保護を受けるくらいの生活を続けたのちに、「システムに自分を合わせるよう努力する」ことをやめ、「システムを自分に合わせるよう工夫する」ようになった。

そして、ハーバードの大学院で教鞭をとるような成功を成し遂げた人物です。

いかに平均が人間の個性(可能性)を潰しているか、書いているのを読むのは面白いのですが、二番目が公立小学校に就学する頃に読めてよかったなぁ!と思ったのが、結局、義務教育って「平均」に基づいて設計されているから。

平均とランク

上に、「平均人」を「タイプ」と関連させて書きましたが、「平均」が発明されてから、そこに「ランク」を持ち込んだイギリス人がいました。

上流階級で生まれ育った彼は、決して平均的だとはいえない自分の周りにこそ、理想のイギリス人の姿があると思った。

彼は、「平均的」であることが素晴らしいとは思えなかったんです。
なので、平均による「タイプ」に対し、「ランク」という考え方を持ち込んだ。

そして、平均からどの程度離れているかで、優劣がつけられるようになります。
人間は優れたものと劣ったものに分けられる。という考え方ですね。

平均的年収から高い方に大きく逸脱しているお金持ちは優れている。
一つが優れている場合は他の要素についても優れている可能性が高い。
お勉強ができる人はスポーツもできる可能性が高く、容姿も優れている可能性が高い。

という考え方とつながります。

それが産業に適用されると、優れているから管理する人間 vs その他大勢の管理される平均的人間、に分けられます。

管理される工場労働者はたくさん必要ですから、近代的設備にふさわしい、科学的に管理できる工場労働者を作り上げる、科学的教育が求められました。
どんな教育法ができたか、紹介します。

教育の新しい使命は、新しい経済で働く人材を大量に準備することだ。科学的に考えれば、天才ばかりで作られたシステムより、平均的な労働者から作られたシステムのほうが、効率よく動く。学校は平均的な生徒に対し、標準化された教育を提供すべきで、優れた人材を育てる場所ではない。

たとえば、ジョン・D・ロックフェラーが設立資金を提供した一般教育委員会が1912年に発表したつぎの文には、学校に関するビジョンがよく表れている。「われわれは子どもたちを哲学者や学者や科学者にするつもりはない。子どもたちのなかから、作家や教育者、詩人や文学者を育てるつもりもない。偉大な芸術家、画家、音楽家、弁護士、医者、伝道者、政治家、指導者の卵を探すつもりもない。そういった人材はすでに十分に提供されている……われわれは子どもたちを、彼らの両親が不完全にしかできなかった物事を完璧に実行できるように教育する」。

 工場での仕事を「完璧に」こなす労働者を作り上げるため、子どもたちをグループ単位に分け教育を施した。平均を使ってあらゆるものを標準化することで、教育制度全体の構造を見直した。たとえば、生徒は(成績や興味や能力ではなく)年齢別にグループ分けされ、グループ単位でさまざまな授業を受けた。授業時間はすべて統一され、将来のキャリアの心構えを持たせるため、工場のベルを真似て授業の開始や終了を告げるベルも導入された。何がどのように教えられるか、どうやって成績を評価するか、教科書に掲載する内容から、教師の選び方まで、厳密に定められた。

『平均思考を捨てなさい』より

うわぁ、今の学校そのまんまですね!

標準化されたシステム内で教育され、平均からどれくらい逸脱しているかでその人の優劣が計られる。

著者がうまく表現しているのですが、「私たちは誰もが、できるかぎり平均より高く評価されたいというプレッシャーを感じる」ようになったのです。

なるほどね。学校に入ると子どもが変わると聞いていたけど、そういうことなのか。

小学校の学習指導要綱が今のものに変わるころ、仕事で、学校の先生向けの「どう改訂されるか」教材を、複数作ったことがあります。
なので、「どういうふうに、先生が管理されているか」はうっすらわかります。

「個性を大事に」といった文言はあちこちで見かけますが、いつの間にか馴染んだ自由教育に比べ、公立小の教育は、確かに個人のほうを向いていないです。
学校も、多くの企業もそうでしょう。

子どもがプレッシャーにさらされる前に、自分の中で整理できるのは、とてもいい経験でした。

【参考文献】

 

 

 望月 索 ☆ 
一派社団法人日本マクロヘルス協会理事
らくなちゅらるライフプランナー

 

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執筆者について

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本やムックの編集者、時々ライター、一般社団法人 日本マクロヘルス協会理事。3人の子を育てる高齢出産ワーキングマザー。編著に『子どもを守る自然な手当て』、企画・翻訳書に『小児科医が教える 親子にやさしい自然育児』『親子で楽しむ おむつなし育児』など。大人向けのノンフィクションや小説、実用書、児童文学、絵本など、多くの出版物を編集・製作中。趣味はマンガ読み。

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